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開発より大変?ITプロジェクト管理者の“見えない仕事”とは【現役PLが解説】

エンジニアの現場では、コードを書かない管理者(PM/PL/チームリーダー)の仕事は、つい「楽そう」に見られがちです。しかし実際には、開発よりも負荷が高く、しかもプロジェクトの成否を左右する「見えない仕事」が山ほど存在します。

例えば、メンバーの体調やモチベーション、試験観点の漏れ、顧客との温度感、要件の曖昧さ、納期プレッシャー、想定外のトラブル対応など。一見すると誰も気にしていないような要素まで、管理者はすべて把握し続ける必要があります。そのため、表向きには「ただ会議に出ているだけ」に見えていても、裏側では常に頭をフル回転させているのが実態です。

さらに、プロジェクトが順調に見えている場面でも、裏では仕様の穴埋め・アサイン調整・顧客との折衝・火消し・資料作成・リスク管理といったタスクが途切れることなく押し寄せています。したがって、管理者は常に「見えないところで忙しい」状態になりがちです。

本記事では、現場でPL/チームリーダー業務に携わってきた筆者の経験をもとに、「開発より大変」と言われるプロジェクト管理者のリアルをできるだけ具体的に解説します。管理者を目指している方はもちろん、日々管理者と一緒に働いているエンジニアや、これからIT業界へ飛び込もうとしている方にも役立つ内容を目指しています。

プロジェクト管理者の「見えない仕事」とは?まずは一覧で整理

まずは、プロジェクト管理者が現場でこなしている「見えない仕事」を一覧で整理してみましょう。この一覧を見るだけでも、「コードを書いていない時間」に何が起きているのか、イメージしやすくなるはずです。

見えない仕事 具体的な内容
メンバーの工数配分 スキル・経験・タスク量・体調を踏まえて、誰に何をどこまで任せるかを決める。
試験観点・仕様の穴埋め 設計書や要件書の抜け漏れをチェックし、テストパターンを整理・調整する。
顧客との調整 スケジュール・要件・優先度・品質ラインなどについて、双方の認識を揃える。
社内調整・根回し 別チーム・別部署との調整や、上長への相談、事前の根回しを行う。
リスク管理 遅延・障害・要員不足などのリスクを洗い出し、事前に潰すための打ち手を考える。
メンバーの体調・心理ケア メンバーの表情や発言から変化を察知し、負荷調整や相談対応を行う。
見積り精度の担保 工数・期間・コストの見積りに責任を持ち、説明できる状態にしておく。
「決まっていないこと」を決める 要件や仕様が決まっていない部分について、関係者と相談しながら方針を決める。
火消し(トラブル対応) 障害・仕様変更・緊急対応などの突発タスクを、関係者と連携しながら収束させる。
会議体の運営 アジェンダ作成、議事録、ToDoの整理など、会議そのものを回す役割を担う。
進捗の数字化 「なんとなく進んでいる」を「何%完了」まで落とし込み、可視化する。
各種資料作成 顧客向け・社内向けの報告資料や計画書を作成し、説明責任を果たす。

こうして整理してみると、管理者の仕事の多くが「コードとしては残らない仕事」であることが分かります。しかし、その見えない部分をどれだけ丁寧に回せるかによって、プロジェクトの安定度は大きく変わってきます。

現場で起きている「管理者だけが知るリアル」

次に、さらにリアルなイメージが持てるように、管理者だけが肌で感じている「あるあるな状況」をいくつか紹介します。いずれも、開発メンバーからは見えにくい部分ですが、実際の現場では非常によく起きていることです。

工数が「1人日」ズレるだけで全体計画が崩れる

まず、多くの管理者がプレッシャーを感じるのが工数とスケジュールの精度です。例えば、ある機能に対して「8人日」と見積もっていたものを、試験観点の整理やパターンの見直しによって「6人日」に圧縮できることがあります。ただし、その裏側では、試験パターンの優先度を付けたり、別メンバーを追加アサインしたりといった細かな調整が必ず発生しています。

そして、たった1人日のズレであっても、実際には次のような影響が連鎖的に起こります。

  • 結合試験の開始が後ろ倒しになる。
  • リリース準備や受け入れテストとタスクがバッティングする。
  • 顧客への説明や社内報告が必要になり、さらに時間が取られる。

このように、表面的には「1人日の差」に見えても、その影響範囲は想像以上に大きくなります。そのため、管理者は常に「どこなら削れるか」「どこは死守すべきか」を考え続けることになります。

メンバーから「土日出ます」と言われても簡単にOKできない

プロジェクトが詰まってくると、メンバーから「土日出ます」「残業を増やして巻き返します」と申し出てもらえることがあります。一見すると非常にありがたい言葉ですが、一方で管理者の頭の中では次のようなチェックが瞬時に走ります。

  • 体調は本当に大丈夫なのか。
  • すでに残業続きになっていないか。
  • この人に負荷を集中させると、先々のフェーズで逆にパフォーマンスが落ちないか。
  • 別メンバーのアサインや観点の整理でカバーできないか。
  • 「土日出社」が常態化すると、チームの文化が崩れないか。

つまり、管理者は「ありがたいからOK」ではなく、プロジェクト全体とメンバーの健康の両方を守るために慎重に判断する立場です。そのため、あえて「一旦止めよう」と伝えることも、実はかなり勇気のいる決断だったりします。

進捗会議で「本音の進捗」が出ないと地獄が始まる

毎日のように行われる進捗報告の場にも、管理者ならではの難しさがあります。例えば、メンバーから「だいたい80%くらいできています」と報告されていても、実際のところは体感50%程度というケースは珍しくありません。

なぜなら、まだ検証していないパターンや例外系の実装、ドキュメント整備などが「頭の中では分かっているけれど、言語化されていない」状態になっていることが多いからです。したがって、管理者は単に数字だけを見るのではなく、質問を重ねながら「本当の進捗」を引き出していく必要があります。

さらに、チームの雰囲気によっては、悪い報告がしづらい空気が生まれてしまうこともあります。その結果、表向きは「順調です」がしばらく続き、ある日突然「実は全然終わっていません」と判明することもあります。つまり、進捗会議は数字の報告の場であると同時に、心理的安全性を作る場でもあるのです。

一番最初に仕様の穴を見つけるのは、だいたい管理者

要件定義書や設計書が完璧な状態で上がってくることは、ほとんどありません。例えば、例外パターンが定義されていない、データの境界値が曖昧、他システム連携時の細かい条件が抜けているなど、こうした「仕様の穴」は、実は管理者やリーダーが最初に気づくことが多いです。

この段階で気づいて対処できれば問題は小さく済みます。しかし、スルーしたまま開発やテストに入ってしまうと、後の工程で数倍の工数を払って修正することになります。そのため、管理者は設計レビューやテスト計画の段階で、かなり神経を使いながら資料を読み込んでいます。

メンバーのモチベーション管理という「仕事に見えない仕事」

さらに、管理者はタスクやスケジュールだけでなく、メンバーの感情やモチベーションにも気を配っています。例えば、表情が暗くなっている、急に口数が減っている、チャットの返信が雑になっている、といった変化から「何かあったかもしれない」と気づき、声をかけることも少なくありません。

こうしたケアは、ドキュメントにも工数表にもほとんど残りません。しかし、メンバー1人が燃え尽きたり体調を崩したりすると、プロジェクト全体に影響が出ることは珍しくありません。したがって、管理者は常に「人」と「システム」の両方を見ていると言えます。

PL/管理者の1日はこう動く【モデルケース】

ここまで読んで、「結局1日なにをしているのか」が気になった方もいるかもしれません。そこで、PL/管理者の1日の流れを、あくまで一例として紹介します。もちろん現場によって違いはありますが、全体像をつかむ参考になるはずです。

  • 9:00 メール・チャット確認
    障害報告や顧客からの問い合わせ、前日の持ち越しタスクなどを一気に確認する。
  • 9:30 仕様・要件の未定義部分を整理
    「ここは決めきれていない」「パターンが曖昧」といった箇所を洗い出し、優先度を付ける。
  • 10:30 開発チームとのデイリーミーティング
    昨日の進捗・今日やること・困っている点を共有し、本音ベースの状況を引き出す。
  • 11:00 顧客向け資料の作成・修正
    スケジュールの見直しや試験方針の説明資料などを作成し、分かりやすく整理する。
  • 12:00 昼休憩
    とはいえ、トラブルがある日はここで顧客電話や社内調整が入ることもある。
  • 13:00 結合試験パターンの整理・圧縮
    実施可能なパターンと現実的に難しいパターンを切り分け、工数と品質のバランスを取る。
  • 14:00 メンバーからの相談対応
    実装や設計の悩みだけでなく、キャリアや働き方の相談を聞くこともある。
  • 15:00 リスクの洗い出しと対応策の検討
    「このままだとここが詰まりそう」というポイントをリスト化し、先手を打つ。
  • 16:30 社内外への調整・根回し
    他チームやインフラ担当、上長との調整を行い、合意形成を進める。
  • 18:00 進捗の数字化・報告内容の整理
    感覚的な話を、誰が見ても分かる数字と状態の一覧に落とし込む。
  • 19:00 翌日のタスク配分とToDoの整理
    「明日何をするか」がチーム全体で迷子にならないよう、タスクを分配する。

こうして並べてみると、管理者の1日は「人・タスク・リスク・情報」の交通整理でほとんど埋まっていることが分かります。実際には、コードを書く時間がほとんど取れない日も多く、「開発より楽」とはとても言えないのが現実です。

なぜ管理者は「開発より大変」と言われるのか

ここまでの内容を踏まえると、管理者が「開発より大変」と言われる理由も、自然と見えてきます。あらためて、ポイントを整理してみましょう。

  • 見えない業務が多すぎる
    コードのように成果物として残らないタスクが多く、外からは「何をしているのか」が伝わりにくい。
  • 責任範囲がとにかく広い
    要件・スケジュール・品質・コスト・チームの状態など、ほぼすべての最終責任を負う立場にある。
  • 心理的なプレッシャーが大きい
    顧客・上司・メンバーの板挟みになりやすく、常にどこかに気を配り続ける必要がある。
  • 複数人の「状態」を見続ける必要がある
    自分一人だけではなく、チーム全体の調子や感情を把握し続けなければならない。
  • 成果が「問題が起きなかったこと」になりやすい
    何もトラブルが起きなかったときこそ管理者の努力が効いているのに、それが評価されにくい。

このように、管理者は「見えないところでプロジェクトを支える仕事」です。だからこそ、現場で管理者を務めている人に対して少し視点を変えてみると、チーム全体のコミュニケーションも、きっと前向きな方向に変わっていくはずです。

管理者の負担を減らすために、現場でできる工夫

最後に、管理者の負担を少しでも減らし、チーム全体として強くなっていくための工夫をいくつか紹介します。これは管理者自身が意識するポイントであると同時に、メンバー側が協力できるポイントでもあります。

  • タスクの細分化と見える化
    「なんとなくやることが多い」という状態を避け、誰が見ても分かる粒度にタスクを分解して共有する。
  • 試験観点を早めに固める
    結合試験の直前に観点が増えると一気に崩れるため、できるだけ早い段階で観点整理を進める。
  • 進捗は感覚ではなく数字で表現する
    「たぶん大丈夫」ではなく、「何件中何件が完了」「観点のうち何割消化」といった具体的な数字で会話する。
  • テンプレートやフォーマットを整備する
    議事録、試験観点表、進捗表などをテンプレート化し、毎回ゼロから作る手間を減らす。
  • 1on1や雑談で本音を引き出す
    会議の場では言いにくいこともあるため、定期的な1on1やカジュアルな対話の場を設ける。
  • 「言いづらいことを言える」文化を育てる
    進捗の遅れや設計の不安を早めに共有できるよう、失敗や遅延を過度に責めない雰囲気を作る。
  • 情報を管理者に集中させすぎない
    情報共有の場やドキュメントを活用し、「管理者だけが知っている」状態を減らしていく。

こうした工夫を少しずつ積み重ねていくことで、管理者の負荷は確実に軽くなります。同時に、チーム全体の自律性や信頼関係も高まり、結果としてプロジェクトの成功率も上がっていくはずです。

まとめ:管理者は「見えない領域」を支える専門職

ここまで、ITプロジェクト管理者の「見えない仕事」と、その大変さについて解説してきました。あらためて振り返ると、管理者は次のような特徴を持つ役割だと言えます。

  • コードには残らないが、プロジェクトの土台を支える仕事をしている。
  • 人・タスク・リスク・情報のすべてを同時に扱う必要がある。
  • 問題が起きなかったときほど、実はうまく機能している。

だからこそ、管理者を目指している方は、技術力だけでなく、コミュニケーション力や状況判断力を少しずつ鍛えていくことが重要です。また、すでに現場で管理者として奮闘している方は、「自分がやっていることにはちゃんと価値がある」と、まずは自分自身で認めてあげてほしいと思います。

そして、開発メンバーの立場でこの記事を読んでいる方は、日々一緒に働いている管理者の裏側の苦労を、少しだけ想像してみてください。そうすると、チーム内のコミュニケーションや協力の仕方が、きっと今までよりも前向きなものに変わっていくはずです。

筆者プロフィール

本記事は、複数のWebシステム開発現場でプロジェクト管理やチームリードを経験してきたエンジニアによって執筆されています。要件定義・設計・開発・試験・運用まで、幅広い工程に関わる中で得た「現場のリアル」をまとめています。

特定の企業やプロジェクトに依存しない、中立的で現場寄りの視点を大切にしています。また、現場で蓄積した知見を共有することで、エンジニアや管理者が働きやすい環境づくりに少しでも貢献できればと考えています。

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記事監修

ドライブライン編集部

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